土壌改良材とは
土壌改良材とは、作物の栽培に適した土にするために施す資材のことです。
肥料は作物に栄養を与えることが目的ですが、土壌改良材は土の物理性、化学性、生物性の3つの要素を改善するために使います。
酸度矯正や土の通気性や保水性を高め、作物に有益な微生物の活動を促進することで、土壌の肥沃度や物理性などを改善する効果が期待できます。
理想は肥沃度の高い土壌
肥沃(ひよく)とは、栄養豊富な土壌で、作物がの生長に適した環境を持つ状態を指します。
土壌の物理性・化学性・生物性の3つの要素がバランスよく整っていることで肥沃な土壌と呼ばれます。
物理性
土壌の物理性とは水や空気の移動に関する要素で、排水性や通気性、保水性といった土壌そのものが持つ機能のことです。
物理性の良い土壌の土は微細な粒子が多く集まり団子状(団粒)となっており、この団粒と団粒の間の隙間に空気や水を含むことで通気性や排水性が良くなります。これを「団粒構造」と呼びます。
また、土の柔かさや厚さも物理性に含まれます。
土壌の排水性や通気性が向上すると、根が酸素をより効率よく吸収できるようになります。土壌の保水性が高まると水はけが良くなり、水分が過剰に根に留まらず、根腐れの改善も期待できます。
化学性
土壌の化学性とはpHや栄養分などの作物の生育に欠かせない栄養バランスを整える要素のことです。
pH(酸度)は肥料の吸着性や微生物の活動、病害虫の発生に影響を与えます。
日本で栽培する作物の多くは中性~弱酸性(pH6.5~5.5)を好み、酸性またはアルカリ性に偏らないように注意しなければなりません。
土壌pHがそれぞれの作物ごとの適正範囲内に保たれていることが重要です。
生物性
土壌の生物性とは、有機物の分解や細菌の増殖、ミミズやバクテリアなど微生物や小動物の量や働きによってもたらされる機能です。
土中の有機質を増やすことで、微生物の多様性と活動が促進されます。
有機物と微生物が豊富に含まれている土壌では有機物の分解が持続的に行われます。これは作物の生育を良くし、物理性も改善する効果があります。
土壌改良が必要な土とは
- 土壌や圃場の水はけが悪く、作物が根腐れを起こしていたり、酸欠状態である
- 水はけが良すぎて、肥料があまり効いていない
- 連作障害が発生している
- 作物の病害被害が多発し収まらない
- 土壌酸度が高い又は低く、土壌pHを矯正したい
- 作物の収穫量や品質を向上させたい
土壌改良材の施用タイミング
土壌改良は1年に1度行うことで土壌の健康を維持し、作物の収穫量と品質を継続的に向上させることができます。
土壌改良材を使用する最適な時期は特に決まっておらず、霜が降りる前の晩秋や雪が解けた早春、植えてある作物が少ない冬でも大丈夫ですが、12月~2月の冬季が比較的適しているといえます。
冬は気温の低さにより土壌中の病原菌や害虫を寒気にさらし、自然に減少させることができます。
冬が難しければ夏でも構いません。夏の強い太陽光を利用して土壌に潜む有害虫を死滅させることもできます。
土づくりは自分の作付けに合うタイミングで栽培を始める1ヶ月前を目安に行いましょう。
土壌改良材の種類と効果
植物由来
- 腐葉土
- 腐葉土は広葉樹などの落ち葉が風化したり、ミミズやバクテリアなどの土壌生物が1~2年程かけて分解、発酵させたものです。
- 繊維分が多く含まれており、土を柔らかくし、通気性、保水性、保肥性、排水性の改善に効果があります。
- 市販の腐葉土はほとんどが短期間に人工的に作られており、ホームセンターなどで購入することができます。
- 秋に落ち葉を集めたものを発酵させて腐葉土を手作りすることもできます。
- 繊維分が多く含まれており、土を柔らかくし、通気性、保水性、保肥性、排水性の改善に効果があります。
- 籾殻
- 籾殻は稲を脱穀した後に残ったものです。
- 籾殻は微生物に分解されにくい、分解されるスピードが遅いのでそのまま使っても作物に影響を与える事がありません。
- そのため土壌改良として使いやすく、土に混ぜるだけで通気性を改良することができます。
- 籾殻は微生物に分解されにくい、分解されるスピードが遅いのでそのまま使っても作物に影響を与える事がありません。
- 籾殻くん炭
- 籾殻くん炭(もみがらくんたん)とは、籾殻を400℃ほどの温度で燻して炭化させたものです。
- 籾殻は炭化させると目に見えない小さな穴がたくさん開き、土に混ぜ込むとその穴に空気や水が通り、栄養分もためることができるので、通気性や排水性、保肥性が改善されます。
- 籾殻くん炭はpH8.0〜10.0前後でアルカリ性の性質を持ちます。そのため酸性に傾いた土壌のpHを中和することができます。
- 籾殻は炭化させると目に見えない小さな穴がたくさん開き、土に混ぜ込むとその穴に空気や水が通り、栄養分もためることができるので、通気性や排水性、保肥性が改善されます。
- バーク堆肥
- バーク堆肥とは針葉樹・広葉樹の樹皮粉砕、発酵、熟成させたものです。
- リグニンという有機物を含み、分解される速度が遅い為、土壌にいる多くの微生物が集まり餌になるため、土に混ぜると多くの微生物が住み着き多様化し、病原菌の繁殖を防ぐ効果が出ます。
- そしてその微生物の働きにより団粒構造が促進され、土壌の保水性や保肥性が向上すると言われています。
- リグニンという有機物を含み、分解される速度が遅い為、土壌にいる多くの微生物が集まり餌になるため、土に混ぜると多くの微生物が住み着き多様化し、病原菌の繁殖を防ぐ効果が出ます。
- ピートモス
- ピートモスは、腐植化したミズゴケやスゲなどの植物を乾燥・粉砕したものです。
- ピートモスは苔が原料のため吸水性が高く、土壌の保水性や保肥性を向上させる働きがあります。
- ピートモスには、酸度をpH6前後の中性に調整済みのものと、酸度を調整しておらずpH3.8~4.8と強い酸性を示すの無調整のものがあります。
- 酸度が調整されているものは土壌改良用に、未調整のものはアルカリ性土壌の酸度を調整したいい場合やブルーベリーなど酸性を好む作物の栽培に使用しましょう。
- ピートモスは苔が原料のため吸水性が高く、土壌の保水性や保肥性を向上させる働きがあります。
動物由来
- 牛ふん堆肥
- 牛ふん堆肥とは、牛のふんに稲ワラやおがくずなどを加え堆積発酵させたものです。
- 繊維分を多く含み、通気性・排水性・保水性・保肥性などの土壌改良効果が高く、土をフカフカに改良してくれるという特徴があります。
- それに伴い、ミミズやバクテリアなどの土壌生物の多様性も高まり、病害虫の発生も抑制されることが期待できます。
- 繊維分を多く含み、通気性・排水性・保水性・保肥性などの土壌改良効果が高く、土をフカフカに改良してくれるという特徴があります。
- 鶏ふん堆肥
- 鶏ふん堆肥とは、ニワトリの糞を十分に発酵させたものです。
- 発酵鶏ふんの他に、鶏ふんを乾燥させた乾燥鶏ふんや、高温で炭化させた炭化鶏ふんもあります。
- 鶏ふんは有機物を含んでおり、土壌の有機物含有量を増やすのに役立ちます。有機物は土壌の保水力や保肥力を向上させ、土壌の質を改善する助けとなります。
- 牛ふんや豚ぷんよりも窒素・リン酸・カリウムの三要素が多く含まれ、化学肥料と同程度の肥料効果も期待できる為、土壌改良材として使用されるよりも肥料として使われることが多いです。
- 牛ふんや豚ぷんよりも早く効く一方で土壌で分解されやすいため、効果が切れるのも早いという特徴があります。
- 発酵鶏ふんの他に、鶏ふんを乾燥させた乾燥鶏ふんや、高温で炭化させた炭化鶏ふんもあります。
- 豚ぷん堆肥
- 豚ぷん堆肥は豚のふんを主成分として、おがくずや籾殻などを混ぜて発酵させたものです。
- 豚ぷん堆肥は牛ふん堆肥と鶏ふん堆肥の中間の性質を持っています。
- 豚の飼料由来のでんぷんやたんぱく質を多く含み、肥料成分が高く即効性があることが特徴で、土壌改良材として使用されるよりも作物の成長を促す肥料としての利用が一般的です。
- 土壌改良材としては、団粒効果を高め通気性と保水性を良くします。
- 豚ぷん堆肥は牛ふん堆肥と鶏ふん堆肥の中間の性質を持っています。
石灰資材
農業に使用する石灰資材の役割は、
・酸性に傾いた土壌のpHを中和する
・石灰資材の主成分であるカルシウムによる土壌のカルシウム補充
です。
- 苦土石灰
- 苦土石灰はドロマイトという岩石を細かく砕いたものです。苦土はマグネシウム、石灰はカルシウムを指しています。
- アルカリ分50%程度の緩効性の石灰でカルシウムとマグネシウムがバランスよく配合されており、もっとも扱いやすいのが苦土石灰です。
- アルカリ分50%程度の緩効性の石灰でカルシウムとマグネシウムがバランスよく配合されており、もっとも扱いやすいのが苦土石灰です。
- 消石灰
- 消石灰は、石灰石を粉砕して焼成、加水、消化、熟成させたものです。主成分は水酸化カルシウムと呼ばれる物質です。
- アルカリ成分が60%程度と比較的多く含まれており、速効性があります。強酸性の土壌を一気に中性に戻したい時に使用します。
- 目に入ると失明の恐れがある為、取り扱いには注意が必要です。
- アルカリ成分が60%程度と比較的多く含まれており、速効性があります。強酸性の土壌を一気に中性に戻したい時に使用します。
- 有機石灰
- 有機石灰は、カキ殻やサンゴの化石などを原料としています。アルカリ分は30~50%程度で、土壌改良の効き目は非常に遅くなります。
- この特性から、肥料や堆肥と一緒に混ぜて使っても問題なく、有機石灰を撒いた後にすぐ種まきや定植をすることもできます。
- この特性から、肥料や堆肥と一緒に混ぜて使っても問題なく、有機石灰を撒いた後にすぐ種まきや定植をすることもできます。
※アルカリ成分が80%程度と非常に多く含まれてる生石灰(きせっかい、又は、せいせっかい)もありますが、水に触れると発熱するなど、取り扱いが難しいことから農業用としては他の石灰を使用しましょう。
鉱石由来
- バーミキュライト
- バーミキュライトは、苦土蛭石(くどひるいし)という鉱物を高温で膨張させ細かく砕いたものです。
- バーミキュライトは多孔質で目に見えない無数の空洞があり、その隙間にたくさんの水分を含むことができ、保水性があります。
- 多孔質の構造により土壌の通気性も向上します。
- 塩基置換容量という土中に含まれるカルシウムやマグネシウム、カリウムを保持する能力が高いため、肥料の流出を防ぎ保肥性の高い土になります。
- バーミキュライトは多孔質で目に見えない無数の空洞があり、その隙間にたくさんの水分を含むことができ、保水性があります。
- ゼオライト
- ゼオライトは沸石とも呼ばれる天然鉱物のひとつです。
- ミクロサイズの穴が無数にあいている多孔質な結晶構造でその穴の大きさは0.3~1nmと非常に小さく、この細かな穴が肥料の栄養素を吸着することにより保肥力の向上や土壌の通気性の向上などの効果が期待できます。
- ミクロサイズの穴が無数にあいている多孔質な結晶構造でその穴の大きさは0.3~1nmと非常に小さく、この細かな穴が肥料の栄養素を吸着することにより保肥力の向上や土壌の通気性の向上などの効果が期待できます。
- パーライト
- パーライトは黒曜石や真珠岩などの火山岩を原料として、高温で熱処理し、冷却して細かく砕いてできる発泡体です。
- パーライトには黒曜石(こくようせき)パーライトと真珠岩(しんじゅがん)パーライトの2種類があります。黒曜石と真珠岩の材質の違いから、発泡体が持つ特性にも違いが生じます。
- 黒曜石は黒緑色をしたガラス質な火成岩です。水分量が少なく透水性に優れており、土に混ぜ込むと土壌の水はけや水もち、通気性を改善してくれます。土に水が染み込まない時や根の発育を良くしたい場面で利用します。
- 真珠岩はガラス質の火成岩です。元々水分を多く含み、高温で熱すると全体に穴が開いたスポンジのような軽く多孔質でやわらかな質感になります。通気性と水もちに優れており、土の表面がすぐ乾いたり水はけがよすぎる場合に利用します。
- パーライトには黒曜石(こくようせき)パーライトと真珠岩(しんじゅがん)パーライトの2種類があります。黒曜石と真珠岩の材質の違いから、発泡体が持つ特性にも違いが生じます。
目的別土壌改良材一覧
目的 | 土壌改良材 |
---|---|
排水性、通気性の向上 | 牛ふん堆肥、腐葉土、ピートモス、籾殻、籾殻くん炭、黒曜石パーライト、バーミキュライト、ゼオライト、バーク堆肥 |
保水性、保肥性の向上 | 牛ふん堆肥、腐葉土、籾殻、籾殻くん炭、ピートモス、真珠岩パーライト、バーミキュライト、ゼオライト、バーク堆肥 |
土壌pHを上げる(アルカリ性に傾かせる) | 籾殻くん炭、苦土石灰、消石灰、有機石灰 |
土壌pHを下げる(酸性に傾かせる) | ピートモス |
土をふかふかにする | 牛ふん堆肥、腐葉土、籾殻、籾殻くん炭、ピートモス |
土壌改良材の使い方
土壌改良剤の使用量は、土の性質や作物の種類によって変わります。下記を目安に使用してみましょう。
有機質の多い堆肥やバーク堆肥…土壌の5〜10%程度
籾殻…土壌の20%程度
籾殻くん炭…土壌の5~10%程度
石灰資材…1㎡あたりの土のpHを1.0上げる(アルカリ性に傾ける)目安は、消石灰なら80g、苦土石灰なら100g、有機石灰なら130gを目安に混ぜましょう。土1kgに対して1.5gの苦土石灰の使用が目安です。
バーミキュライト…土の量に対して10~20%程度
ゼオライト…土の量に対して5~10%程度
パーライト…土の量に対して10~20%程度
土壌改良材を使用する際の注意事項
- 使いすぎに注意
- 土壌酸性度を変化させる籾殻くん炭や石灰資材、ピートモスを過剰に投入すると、pHが変化しすぎてしまい、作物が上手く育たない、枯れてしまう恐れがあります。
- 石灰資材と肥料を同時に入れない
- 石灰資材と肥料を同時に土に混ぜてしまうと肥料に含まれる窒素と反応してアンモニアガスを発生させます。
- 肥料の窒素分は石灰と合わさることで、アンモニアガスへと変化して消失してしまいます。
- また、アンモニアガスは植物の酸素を奪い酸素不足が生じ枯れてしまう原因にもなります。
- 石灰資材によって異なりますが、苦土石灰の場合は1週間、消石灰の場合は2週間ほど間隔を空けましょう。
- 但し、有機石灰はゆっくり作用するので熱もガスも出ず、混ぜた直後でも植え付けや種まきができます。
- 肥料の窒素分は石灰と合わさることで、アンモニアガスへと変化して消失してしまいます。