病害虫の防除に関しては農薬だけに頼らずに様々な技術を組み合わせて行う管理方法が主流になっております。
IPM防除「総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management)」と言い、耕種的防除、物理的防除、生物的防除、化学的防除を組み合わせ、効果的で安全性や環境保全を高めます。
耕種的防除法
耕種的防除法とは、栽培環境や作付けの工夫を通じて病害虫の発生を抑える防除法です。
抵抗性品種
同じ作物でも品種によって病害虫に対する抵抗性が異なり、病害虫に強い品種を選ぶことで被害を抑えることができます。
例えばピーマンではペッパーマイルドモットルウイルス(PMMoV)によるモザイク病の抵抗性品種として「京ひかり」「京鈴」「みおぎ」といった品種があります。
抵抗性台木
台木(だいぎ)とは、接ぎ木をするときに根を持ち土台となる植物のことです。台木の上に接着したい枝や芽を「穂木(ほぎ)」と呼びます。接ぎ木をすると台木と穂木、それぞれの特性のいい所どりをすることができます。
ウリ科やナス科などの果菜類では土壌病害等対して抵抗性品種や近縁種を台木にした接ぎ木栽培が普及しています。
圃場衛生
圃場の衛生管理は耕種的防除の中でも最も基本的な取り組みです。
収穫後の残渣物には病原菌が生息している恐れがあるので、栽培が終わった圃場の後片付けは十分に行いましょう。
また、栽培期間中に病害虫の発病が発生した株は被害が拡大する前に抜き取り、圃場外に処分します。
圃場付近の雑草は病原体の温床となるので、こまめに除草を行いましょう。
輪作
同じ作物を同じ圃場で栽培を繰り返すと、特定の作物に寄生する病原菌の密度が高まり、病害が発生しやすくなります。
同一耕地に異なる種類の作物を交互に栽培することを輪作と言い、輪作を行うことで病原菌の寡占化を抑制します。
有機物施用や土壌改良
土壌の状態や水はけも病害虫予防に関係します。
土壌に有機物を施用することで微生物を活発化させ、病原菌の発生を抑えてくれる効果があります。
土壌改良を行うことで保水性や排水性、保肥力が向上し、化学性や物理性が改善され、病害虫に対する抵抗力も増大します。
また、土壌pHを計測し作物に合ったpHに調整することも重要です。
例えば、ピーマンの健全な生育には土壌pHは5.5~6.0とされています。適切なpHを維持することでピーマンの根は必要な栄養素を効率的に吸収することができます。
環境管理
多くの病害は高温多湿条件で発生が助長されるため、温度と湿度の管理が重要です。
特にハウス栽培の場合、密閉されている空間であり空気が循環しにくいです。
ハウスサイドの換気や天窓換気装置、妻面換気装置、循環扇などで適度に換気を行い、空気を循環させ、温度や湿度を下げることが大切です。
また、適切な整枝や摘芯を行い過繁茂を避け風通しの良い環境作りを心がけましょう。
雨除け栽培・袋かけ栽培
雨除け栽培は土壌の雨滴の跳ね上がりが感染源となるような病害を防除するために有効です。果菜類や果樹、花卉類など様々な作物で普及しています。
袋かけ栽培はリンゴや梨、ブドウなどで行われており、摘果後の果実に袋をかけることで病原菌や害虫を果実に近づかせないようにすることです。
物理的防除法
物理的防除法とは太陽熱や蒸気、熱水などの熱や光質、機械や器具などの物理的作用を利用して病害虫を防除する方法です。
太陽熱消毒
圃場に十分水を入れて、ビニールなどで被覆し太陽熱を当てることで温度を上昇させて蒸し風呂状態にする方法です。
およそ60℃まで上昇すれば、連作障害を起こす大体の病原菌は死滅するとされています。
土壌還元消毒法
分解されやすい有機物であるフスマや米ぬかを土壌に混入し、土壌を水で満たして太陽熱で加熱する方法です。
土壌の中にいる微生物が、混入された有機物をエサにして増殖することで、土壌の酸素を消費し還元状態にし、病原菌を死滅させることができます。
蒸気消毒
土壌中に蒸気を注入し,加熱する方法です。
原理は太陽熱と同じで、土壌の内部温度を60℃まで上昇させます。
熱水消毒
熱水を土壌表面から土壌中に注入する方法です。
これも太陽光と同じ原理で、土壌の内部温度を60℃まで上昇させます。
土壌の深いところまで熱水を届かせるためには大量の水が必要となります。
銀白色資材
アブラムシ類やアザミウマ類は銀色や白色のキラキラした反射光に対して忌避反応を示します。
この忌避効果を利用したシルバーマルチやシルバーテープなどの銀白色の資材を利用して害虫の作物への飛来や侵入を低減させることができます。
防虫ネット
ハウスの開口部や露地栽培作物の被覆資材として防虫ネットを使用し、害虫の飛来を防止します。
網目が細かくなるほど侵入防止効果が高くなりますが、その分風通しが悪くなり内部の温度が上昇気味になるので注意が必要です。
近紫外線除去フィルム
昼行性昆虫であるアブラムシ類やコナジラミ類、アザミウマ類等の微小害虫は近紫外線域の波長に走光性を示すと言われています。近紫外線除去フィルムを使用することで、害虫の施設内への侵入を防止できます。
また、近紫外線除去フィルムは一部の病原菌では胞子発芽が抑えられるため、発病が抑制される場合もあります。
粘着資材
昆虫には黄~青色系統に誘引される色彩反応があり、粘着剤を塗布した黄色や青色の資材を圃場に設置することで害虫を誘殺することができます。
アブラムシ類やコナジラミ類などは黄色系統、アザミウマ類などは青色系統に誘引されると言われています。
袋かけ
リンゴや梨、ブドウなどの果樹では袋かけをすることで果実に被害を与える害虫の侵入を物理的に遮断できます。
生物的防除法
生物的防除法は害虫の天敵にあたる昆虫や生物を用いることで防除を行う方法です。
生物農薬とも言われております。
天敵昆虫
捕食性昆虫(捕食性ダニ)や寄生性昆虫などの天敵昆虫を成分とする生物農薬です。
捕食性昆虫はエサとなる害虫を探して食べる昆虫で、テントウムシやハナカメムシ、ショクガバエ、カブリダニなどがいます。
寄生性昆虫は寄主に産卵して孵った幼虫が寄主をエサに発育し、最終的に殺してしまう昆虫で、ハチやハエなどがいます。
天敵線虫
天敵線虫は体長1mm以下の昆虫寄生性線虫で、線虫は宿主の体内で増殖します。
そしてある生育段階になったら宿主から幼虫が飛び出し、地中や地表にいる害虫の体内に侵入し致死させます。
微生物農薬
自然界にいる菌などの微生物を利用した農薬で、殺菌剤と殺虫剤があります。
殺虫剤
細菌の一種であるバチルス・チューリゲンシス(BT)が産生する殺虫性タンパクを主成分とする殺虫剤でBT剤とも呼ばれます。
主にチョウ目、ハエ目、コウチュウ目の幼虫に有効です。
殺菌剤
病害防除に使われている細菌には、バチルス・ズブチリスがあり、日本に古くからいる土壌微生物の一種で、稲ワラや枯れ草に棲み着くため枯草菌(コソウキン)ともいいます。納豆をつくる納豆菌もバチルス菌の仲間です。
作物体上に長期間定着させることができ、灰色かび病やうどんこ病など多くの病害に効果を示す。
化学的防除法
化学的防除法は、病害虫や雑草などの有害物質を農薬を用いて防除する方法のことです。
病害虫の発生を未然に防いだり、適用範囲が広く、速効性があることから被害の拡大を抑えられ、作物の品質や収量を確保するために最も一般的な防除方法となっています。