緑肥とは?種類や特徴を詳しく解説

 

緑肥とは?

緑肥とは、栽培した植物そのものを肥料の一種として利用することです。

植物の葉や茎などを枯らしたり腐らせたりせずに土壌に入れて耕し、肥料にしたもののことをいいます。

その歴史は古く、ヨーロッパでは小麦を栽培する前にクローバーをすき込んだり、アメリカではトウモロコシを栽培する前に大豆が緑肥として利用されるなど、世界各国の農業で利用されています。

日本では、田んぼの緑肥としてレンゲ草が用いられています。

 

緑肥の効果

土壌環境の改善

緑肥をすき込むと土の中で有機物が増加するため、それを分解する微生物が増え、土壌の環境が整います。その為、土壌の肥沃度を高めることができます。

 

水はけや水持ちを良くする

根が深く張る緑肥作物を利用することで、土壌を緩和することができ水はけの改善に繋がります。

イネ科の緑肥は土の団粒構造を促進し、土を柔らかく水はけを良くしてくれる効果があります。

 

有害センチュウの抑制

緑肥は、農地の害虫であるセンチュウの発生を抑える効果があります。

マリーゴールドやシロカラシはセンチュウを駆除する成分をつくり、緑肥にすると土壌中の線虫密度を減らすことができます。

エンバクなどは根に侵入したセンチュウの増殖を抑え、クリムソンクローバーのように線虫を餓死させるものもあります。

 

クリーニングクロップ

クリーニングクロップとは、cleaning(掃除する)crop(作物)という意味で、土壌中に蓄積された余分な塩類を植物に吸収させ、土壌にすき込まず、圃場外に持ち出すことです。

特にイネ科の緑肥作物にクリーニングクロップの効果があり、お掃除作物と呼ばれることもあります。

 

雑草抑制効果

緑肥の茎葉が地面を覆い光を遮ることで、雑草種子の発芽・生育を抑制する効果があります。

 

緑肥の種類

緑肥の種類は、キク科、イネ科、マメ科、アブラナ科、ハゼリソウ科に分類されます。その中でもイネ科とマメ科が主流となります。

科が違えば、種を撒く時期も違い、土壌中で繁殖する菌類も違います。

作付けする作物に合った緑肥を選ぶことが最も重要です。

科名 作物名
イネ科(寒冷) エンバク、ライムギ、ライコムギ、コムギ、イタリアンライグラス
イネ科(温暖) ソルゴー(ソルガム)、スーダングラス、トウモロコシ、ギニアグラス
マメ科(寒冷) ヘアリーベッチ、レンゲ、クリムソンクローバー、アカクローバー
マメ科(温暖) クロタラリア、セスバニア、エビスグサ
キク科 ヒマワリ、マリーゴールド
アブラナ科 シロカラシ、カラシナ(チャガラシ)
ハゼリソウ科 ハゼリソウ

(寒冷)…越冬させたり、涼しい時期に栽培する作物

(温暖)…温暖な環境を好み、暖かい時期に栽培する作物

 

イネ科の緑肥

ソルゴー(ソルガム)
ソルゴーは根量が多く土を柔らかく水はけを良くしてくれる、土壌改良効果の高い緑肥です。また、他の緑肥と比べて多くの有機物を生産したり、根の深さが90cm以上に達することもあり、土壌の深い場所から窒素成分などの土壌中に残っている栄養を吸収するという特徴もあります。
【播種時期】暖地:4~8月、中間地:5~8月、寒地:5~7月
エンバク(燕麦)
エンバクの実を脱穀し、押しつぶして作られるのがオートミールです。家畜の飼料や猫草としても用いられることがあります。エンバクは成長が早く、光合成で作った栄養をため込むことができるので、畑にすき込むことで連作障害を防ぐ効果もあります。センチュウ抑制効果も期待できます。
【播種時期】暖地:3~5、8~12月、中間地:3~5、8~11月、寒地:4~9月
ギニアグラス
各種ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウに対し抑制効果が高く、果菜類や根物野菜への緑肥に適します。乾燥に強く、乾燥した土壌でもしっかりと育ち、水はけの悪い土壌の改良に役立ちます。また、土壌の有機物を増やす効果もあります。
【播種時期】暖地:5~7月、中間地:6~7月、寒地:ー
ライムギ
根野菜の大敵であるキタネグサレセンチュウやキタネコブセンチュウなどの害虫の抑制効果があります。塩類濃度が高い土壌の肥料分の除去にも使われます。
【播種時期】暖地:8~11月、中間地:8~11月、寒地:9~10月
イタリアンライグラス
イタリアンライグラスは冷涼の環境でも生育でき、茎葉が土壌を覆い、早春時期に雑草の生育を抑制する効果もあります。また、連作に起因する土壌病害の軽減につながります。養分吸収能力も強く、特に窒素とカリの吸収量が多いです。土壌に残されていた前作の残存肥料を吸収し、養分の流失や溶脱を免れ、すき込みにより再利用されます。
【播種時期】暖地:9~11月、中間地:9~10月、寒地:9~10月
トウモロコシ
深根性で吸肥力が強く、前作の残った肥料を吸い上げる効果があります。有機質の生産が豊富なので、塩類濃度が高い土壌や有機質不足の土壌におすすめです。
【播種時期】暖地:4~8月、中間地:5~8月、寒地:5~7月
スーダングラス
キタネグサレセンチュウやサツマイモネコブセンチュウの密度を滅らし後作物の線虫被害を抑えます。吸肥力が強く、土壌の塩類濃度を下げる効果もあります。
【播種時期】暖地:月、中間地:0月、寒地:月

 

マメ科

ヘアリーベッチ
根が地中40cm程深くまで伸長するため、排水性や保水性といった土壌環境を改善する効果が期待できます。また、菌根菌が根に定着し、リン酸を補給し作物の実りを豊かにします。
【播種時期】暖地:9~11、3~4月、中間地:9~11、3~5月、寒地:4~5、9~10月
レンゲ
根に共生する根粒菌が空中の窒素を固定し、土を肥沃にする効果があります。また、開花頃の茎や葉に窒素の含有量が最も多いく、完全に枯れる前にすき込むと硫安などの肥料に匹敵する即効性があります。
【播種時期】暖地:9~12月、中間地:9~11月、寒地:9~10月
クリムソンクローバー
根に共生する根粒菌が空中の窒素を固定し、土を肥沃にする効果があります。クリムソンクローバーと赤クローバーは種子が雑草化しやすいので、種子ができる前にすき込むか種子はすき込まないようにしましょう。また、白クローバーは雑草化しやすいので使用しないようにしましょう。
【播種時期】暖地・中間地:9~11月、寒地:ー
アカクローバー
根に共生する根粒菌が空中の窒素を固定し、土を肥沃にする効果があります。強い直根と多数の繊維根からなるので下層土壌を破壊し、透水性の改善が期待できます。大豆や小豆に被害を与える ダイズシストセンチュウへの抑制効果もあります。
【播種時期】暖地:中間地:3月~4月、9月下旬~11月中旬、寒地:4~5月、9月~10月上旬
クロタラリア
クロタラリアの根に共生する根粒菌が、空中の窒素を固定して土を肥沃にする効果があります。センチュウ対策にも効果的な作物です。
【播種時期】暖地:4~8月、中間地:4~7月、寒地:6~7月
セスバニア
セスバニアは非常に大きく育つ植物のため、そのまま畑へすき込めばたくさんの有機物を補給することができます。また根に共生する根粒菌が空中の窒素を固定し、土を肥沃にする効果があります。根が深く真っすぐ伸びて成長するため、土壌の硬盤層を砕き、透水性、通気性の改善が期待できます。
【播種時期】暖地・中間地:5~7月、寒地:6~7月
エビスグサ
生育が早く、窒素固定力もあり、キタネグサレセンチュウ、ナミイシュクセンチュウ、ユミハリセンチュウなどの有害土壌線虫を強力に抑制する効果があります。
【播種時期】暖地・中間地:6~7月、寒地:ー

 

キク科

ヒマワリ
土壌深くに根を張り、フカフカの土壌を作るのに役立ちます。ヒマワリの根から排泄される根酸が土壌中の難溶性リン酸を可溶性にし、再び作物に吸収されやすくするため、その後の作物の生育を良くする効果があります。雑草抑制の効果もあります。
【播種時期】暖地:4~8月、中間地:5~8月、寒地:5~7月
マリーゴールド
マリーゴールドの根が土壌中のセンチュウに対し有効な物質を出しセンチュウの密度を制御する効果があります。サツマイモ、ダイコンなどの根菜類、ナス科野菜、ウリ科野菜、アブラナ科野菜などの前作として輪作に組み込むことで土壌病害の軽減と線虫被害の抑制に繋がります。
【播種時期】暖地・中間地:4~6月、寒地:5~6月

 

アブラナ科

シロカラシ
名前の通り辛味成分を含んでおり、それが有害センチュウや細菌、雑草の発生などを抑制する効果があります。生物くん蒸作物として利用した場合、トマト青枯病、ホウレンソウ萎凋病の抑制効果が期待できます。
【播種時期】暖地・中間地:3月、10月下旬~11月、寒地:4~6,7~8月
カラシナ(チャガラシ)
辛味成分が多く含まれ、生物くん蒸効果が高いです。有害センチュウや細菌、雑草の発生などを抑制する効果があります。生物くん蒸作物として利用した場合、トマト青枯病、ホウレンソウ萎凋病の抑制効果が期待できます。
【播種時期】暖地・中間地:2~3月、10月中旬~下旬、寒地:5~6月、8月中旬~9月

※生物くん蒸…土壌病害の防除方法の一つで、特定の植物を土壌に鋤き込むことで、その植物が含む成分が土壌中で化学反応を起こし、有害な生物を抑制する効果があります。

 

ハゼリソウ科

ハゼリソウ
ハゼリソウは生長が早く、すき込んだ茎葉と根系の分解により土壌団粒が形成され土が柔らかくなり、保水性や通気性、保肥力向上の効果が期待できます。また、養分吸収能力が非常に強く、圃場に残されていた前作の残存肥料を吸収してくれます。
【播種時期】暖地・中間地:10~11月、寒地:4~6月

 

緑肥の注意点

目的に適した緑肥を選ぶ

緑肥の種類によって期待できる効果は多種多様です。そのため、利用目的に合った緑肥を選ぶ必要があります。

 

播種時期と方法

地域や気候によって播種時期や播種の方法は異なります。

主作物収穫後や休耕期に播種することが一般的です。

種子のまき方や深さ、間隔なども適切に行う必要があります。

 

主作物と同じ科の緑肥は使用しない

科が同じ作物は栄養分吸収の特徴や病害虫耐性が似ているので、主作物と同じ科の作物を緑肥として用いると主作物に悪影響が起こる場合があります。

 

適切なタイミングですき込む

すき込むタイミングが遅れると、葉や茎が固くなり刈り取りにくくなってしまったり、分解速度が遅くなり緑肥の効果が十分に発揮されない場合があります。

緑肥は大きく育てれば、たくさんの有機物をすき込むことができますが、生長が進むほどC/N値が高くなります。

C/N値が高すぎると緑肥作物の分解に窒素が利用され、土壌中の窒素が一時的に不足することがあり、窒素飢餓状態に陥るので注意が必要です。

窒素飢餓になった場合、化成肥料や液肥で補う必要があります。